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山口地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1988年6月16日

山口県玖珂郡玖珂町四八八番地の一九

原告

荒川孝行

同県岩国市尾津二丁目三六番三四号

植野元

同県同市錦見六丁目一〇番一八号

上風呂五三

同県玖珂郡美川町字小川門前

坂本洋一

同県同郡本郷村大字本郷

渋谷四郎

同県岩国市平田一丁目四番二一号

中井巌

同県同市川西一丁目二二番二七号

中野冬美

同県同市楠町三丁目一〇番九号

永田精弌

同県玖珂郡玖珂町三三一五番地の五二

橋尾克己

同県岩国市麻里布町五丁目五番二二号

藤本ヒサ子

同県玖珂郡和木町和木二丁目九番三〇-五号

村上徹治

同県岩国市錦見二丁目九番五一号

村田孝雄

同県玖珂郡美川町南桑一六一〇番地

村田春生

右一三名訴訟代理人弁護士

内山新吾

同県岩国市麻里布六丁目一四番二五号

被告

岩国税務署長

桑原義幸

右指定代理人

橋本良成

石田寛

小松原明

中野三男

藤田英夫

丸屋惠寛

土井哲生

大土井秀樹

主文

原告らの訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

原告らが、別表申告年月日欄記載の日に、別表記載のとおりそれぞれなした所得税の還付請求に対する被告の不作為は違法であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の本案前の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、各自別表申告年月日欄記載の日に、別表申告年分欄記載の申告年分の確定申告をなすにあたり、被告に対し、別表還付請求額欄記載の金額の所得税還付請求をした。

2  国税通則法五六条一項には、税務署長は、還付金等があるときは、遅滞なく還付しなければならない旨定められているにも拘らず、被告は、右各請求時から相当の期間を経過した現在(口頭弁論終結時である昭和六三年四月二八日)に至るも何らの処分もしない。

よつて右各不作為の違法確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  行政事件訴訟法三条五項にいう「法令に基づく申請」とは、法令によつて特定の者に申請権が認められている場合の当該申請権に基づいてなされた申請をいい、当該申請があつた場合は、行政庁としてこれに応答すべき義務が課せられているものであることを要するところ、所得税法一二〇条一項及び一二二条の規定による確定申告書たる納税申告書を提出する行為は、納税者がその申告により税額を確定する手続(国税通則法一六条)であつて、右の申告による税額の確定につき税務署長が何らかの処分又は裁決をなすべきことを義務づけられているものではない。

また確定申告に基づいて発生する所得税法一三八条、一三九条の還付金の還付行為は、右申告に基づき税額が確定したことによつて具体的に発生した還付金等の返還債務を履行する事実行為に過ぎず、それ自体納税者の権利義務その他法律上の地位を形成し、これに具体的変動を及ぼし、又はその範囲を具体的に確定する等の効果を生ぜしめるものではないから、行政事件訴訟法三条五項にいう行政庁のなすべき「処分又は裁決」に当たらない。

従つて、原告らの本件訴えは、いずれも同法三条五項に定める要件を欠き、不適法である。

2  行政事件訴訟において、共同訴訟を提起するためには、行政事件訴訟法一七条の併合要件を満たされなければならないところ、本件訴訟は、原告荒川孝行外一二名の各別の所得税の確定申告書の提出に基づいて発生したとされる各別の還付金について還付行為をなさない不作為に対する違法確認の訴えであるから、各請求間に関連性がなく、同法一七条の共同訴訟の要件を欠く、不適法な訴えである。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

1(一)  行政事件訴訟法三条五項にいう「法令に基づく申請」とは、当該申請につき、法令上明文で申請の要件が規定されている場合に限らず、法令の解釈上、特定の者に申請権が認められる場合をも含むものであり、このように当該法令の解釈上、行政庁の応答義務が認められる以上、当該応答が法律上の効果を伴う行政庁の公権力の行使とはいえない場合でも、行政事件訴訟法三条五項の「なんらかの処分」に該当する。

(二)  還付請求権は納税申告を前提として成立するものであり、税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、当該申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が税法に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときはその調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する(国税通則法二四条)のであるから、その限りで、還付行為がなされるまでは、納税者の地位は不安定なものといえ、近時課税実務において、確定申告後長期にわたつて課税庁から還付がなされず、また更正の前提となる調査も行われないまま放置される例が頻発しているが、これは申告納税制度を形骸化させ、また国税通則法五六条の規定にも反するものであり、申告納税制を定めた税法の規定の趣旨に照らすと、申告者は課税庁に対し、相当期間内に還付するか、それとも理由を告知して不還付にするか等の行為によつて納税者の不安定な地位の解消を求めることにつき法的利益を有し、これに対し課税庁は応答する義務を負うというべきであり、右のような課税庁の行為は行政事件訴訟法三条五項の「なんらかの処分」に該当し、これを求める請求は「法令に基づく申請」にあたる。

2  行政事件訴訟における共同訴訟が行政事件訴訟法一七条の併合要件を欠く場合には、各訴えを分離することによつて容易にその違法性を治癒しうるのであるから、右方法によるべきであつて、これを安易に却下することは許されない。

理由

一  本案前の主張1について

不作為の違法確認訴訟は、行政庁に対し、法令に基づく申請について相当期間内に何らかの処分または裁決をなすべき応答義務を課すことにより、行政庁の迅速な応答を促し、なされた処分または裁決に対する取消訴訟を可能ならしめるという、いわば取消訴訟に対して補充的性質、機能を有するものと位置付けられるところ、右訴訟の特質からすると、この訴えの訴訟要件として、取消訴訟におけると同様、申請された行政庁の行為につき、右行為によつて一定の権利義務その他法律上の地位を形成し、あるいはこれに具体的変動を及ぼし、又はその範囲を具体的に確定する等の効果を生ぜしめる、いわゆる処分性が認められることを要するものと解される。

ところで一般に国税通則法五六条に定める還付金のうち、原告らが本訴において主張する申告又は更正処分によつて発生する還付金は、納税申告書の提出により、行政庁の何らの処分をまたずに、当然に発生するものであつて、税務署長はその発生を確認したときは遅滞なくこれを金銭で還付しなければならないとされ、この場合、納税者のなす還付請求は、納税申告により発生した還付金請求権の履行を促す意味をもつにすぎず、またこれに対して税務署長のなす不還付の通知、あるいは還付行為自体は、私人の権利義務その他法律上の地位ないし権利関係に具体的変動を及ぼし、あるいはその範囲を確定する等の効果を生ぜしめるものではないことが明らかであるから、これらの税務署長の行為につき処分性を認めることはできない。

また、原告らは、還付請求権が納税申告により成立するものであり、還付行為自体は、還付請求権者の地位について法律上なんらの効力を生ぜしめるものではないとしても、税務署長は調査により、申告書に係る課税標準等又は税額等を更正するのであるから、還付行為がなされるまで納税者の地位は不安定なまま置かれ、従つてこれを解消させるためには課税庁は納税申告者の還付請求に対し、相当期間内に還付するか又は不還付の旨理由を付して通知すべきであり、このような応答義務がある以上、原告らの還付請求は行政事件訴訟法三条五項にいう「法令に基づく申請」に、また行政庁の応答は「なんらかの処分」に該当すると主張する。

しかし、前記のとおり、原告らの還付金請求権が、申告により、税務署長による何らの処分を経ずして、当然に発生するものである以上、還付についての措置が長期間にわたつて懈怠された場合、申告者は直接国に対し、当事者訴訟により公法上の不当利得として還付金の請求をなしうるのであるから、原告が主張するような還付請求権者の地位の不安定を招来するとは認められない。

したがつて、還付請求権者の地位が不安定となることを前提として税務署長に対し、応答を求め得る根拠とすることも肯認することができない。

以上のとおりであつて、結局、被告の本案前の主張1は理由があり、右本案前の主張に対する原告の答弁、反論はこれを採用することができない。

そうすると、原告らの訴えはいずれも行政事件訴訟法三条五項の不作為の違法確認訴訟としてはその訴訟要件を欠く不適法なものといわざるを得ない。

二  よつて原告らの本件訴えをいずれも却下すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して種文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西浅雄 裁判官 大西良孝 裁判官 三木昌之)

別表

<省略>

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